横浜地方裁判所 昭和56年(行ウ)12号 判決 1988年12月21日
横浜市西区南幸一丁目五番二七号
原告
株式会社 鰻亭会館
右代表者代表取締役
足立昇
右訴訟代理人弁護士
布留川輝夫
横浜市中区山下町三七番地九
被告
横浜中税務署長
塩野礒
右指定代理人
波床昌則
同
高橋一雄
同
山田文夫
同
三橋正明
同
白井成彦
同
斉藤重幸
同
高倉英俊
同
森久保貴志
主文
原告の請求をいずれも却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和四六年一二月二五日付けで原告に対してした左の各処分をいずれも取り消す。
(一) 原告の昭和四一年二月一日から同四二年一月三一日までの事業年度分(以下「昭和四一年度分」という。)法人税の再更正処分(但し、審査裁決で一部取り消された後のもの)
(二) 原告の昭和四二年二月一日から同四三年一月三一日までの事業年度分(以下「昭和四二年度分」という。)法人税の更正処分(但し、審査裁決で一部取り消された後のもの)のうち所得金額一六六万三三七六円を超える部分、及び右法人税にかかる重加算税賦課決定処分(但し、審査裁決で一部取り消された後のもの)
(三) 原告の昭和四三年二月一日から同四四年一月三一日までの事業年度分(以下「昭和四三年度分」という。)法人税の更正処分のうち所得金額二〇六万五七四一円を超える部分、及び右法人税にかかる重加算税賦課決定処分
(四) 原告の昭和四四年二月一日から同四五年一月三一日までの事業年度分(以下「昭和四四年度分」という。)法人税の更正処分のうち所得金額二二六万四三九九円を超える部分、及び右法人税にかかる重加算税賦課決定処分
(五) 原告の昭和四五年二月一日から同四六年一月三一日までの事業年度分(以下「昭和四五年度分」という。)法人税の更正処分のうち所得金額三三二万五三一六円を超える部分、及び右法人税にかかる重加算税賦課決定処分
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は料理飲食業を営む株式会社であり、その昭和四一年度分ないし昭和四五年度分の各法人税について被告がした課税の経緯は左記のとおりである(表記中△は負債を示す。)
(一) 昭和四一年度分
<省略>
(二) 昭和四二年度分
<省略>
(三) 昭和四三年度分
<省略>
(四) 昭和四四年度分
<省略>
(五) 昭和四五年度分
<省略>
2 被告がした右各処分(以下昭和四一年度分法人税の再更正処分を「昭和四一年度再更正処分」、同年度分の重加算税賦課決定処分を「昭和四一年度分重加処分」といい、他の年度分の各処分についても同様にいう。そして各年度分の更正処分又は再更正処分を一括して「本件各更正処分」、各年度分の重加算税賦課決定処分を一括して「本件各重加処分」といい、これらの各処分全部を一括して「本件各処分」という。なお、審査裁決で一部取り消されたものについてはいずれも取消後のものをいう。)は、原告の売上に関する帳簿の保管と記載が不十分であるとして、銀行調査の結果判明した原告の代表者足立昇の無記名ないし仮名の銀行預金を原告の売上除外金と認定した上、この金額と右預金に対する受取利息を原告の売上金に合算してなされたものである。
3 しかしながら、原告は原材料の仕入れ及び売上等に関する帳簿類を完備しており、原告の申告は右帳簿に基づく正当なものであつて、被告が原告の売上除外金と認定した右預金は、いずれも足立昇が個人として不動産の売却等で得た収入を銀行に預け入れたもので、原告の売上金ではないから、被告がした本件各処分は違法で取消を免れない。
二 請求原因事実に対する被告の認否
原告の請求原因1、2記載の各事実は認めるが、同3記載の事実は否認する。
三 被告の主張
1 推計課税の必要性
(一) 原告は、飲食店経営等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、横浜駅西口商店街に「横浜店」及び「もつ焼き一番」の二店舗を有している(なお、原告は従前蒲田にも店舗を有していたが、昭和四五年一月これを閉店している。)。
(二) 原告の「横浜店」では、午後一〇時以降閉店までの間売上をレジスターに打たず、その間の売上伝票を破棄した上、右売上を除外して帳簿に記載し、また「もつ焼き一番」においても、閉店後に店長松本郁夫(足立昇の妻の弟)から当日の売上金と使用済及び未使用の各食券を受領した足立昇が右使用済食券を焼却して売上金を実際より少なく記帳していた。
(三) 東京国税局査察部は、法人税法違反の嫌疑により昭和四六年四月二六日原告を強制調査し、無記名ないし仮名にかかる原告の定期預金証書及び貸付信託受益証券等(以下「本件預金等」という。)を発見、押収した。
(四) 足立昇は、当初仮名の預金等の存在を否認し、帳簿の記載が正確である旨供述していたが、本件預金等の各書類が押収されたことを知つて不正行為の事実を供述するようになつた。
しかし、足立昇は、その後も本件預金等が同人の親戚や知人に対する貸付の返済金を預け入れたものである旨供述する一方で、貸付先である旨供述した親戚、知人に対し口裏を合わせるよう依頼する等悪質な偽装工作をしていた。
(五) 以上のとおり、原告は売上除外にかかる原始帳簿を破棄又は焼却し、これについても帳簿も備え付けておらず、実額による損益清算をなしうる資料が存在しなかつた上、足立昇においても事実を隠蔽する等非協力な態度に終始していたのであるから、原告の所得金額を推計により算出して課税する必要があつた。
2 本件各更正処分の根拠
本件各更正処分にかかる課税すべき所得金額の計算は、原告が売上除外によつて留保した簿外財産の各期末残高に基づいていわゆる資産増減法により推計した簿外利益に、原告の確定申告にかかる各期の所得金額をそれぞれ加算して計算したものである。
(一) 昭和四一年度分の課税すべき所得金額は、申告所得金額六二万一六四二円に後記簿外利益金額九六四万二二一八円を加算した一〇二六万三八六〇円であり、この範囲でなされた昭和四一年度分再更正処分は適法である。
右簿外利益は、左表の借方欄の各預金等の期首現在額と期末現在額との差額(すなわち同表の差引増減(△)額欄の金額である。但し、現金については、当該事業年度の最初に簿外預金に預け入れられた金額を期首現在額とし、翌事業年度の最初に簿外預金に預け入れられた金額を期末現在額として計算した。)の合計金額から同表貸方欄の仮受金の期首現在額と期末現在額との差額を控除した金額(以下、各事業年度において同一の方法による。)である。
なお、右の仮受金は、原告代表者の足立昇が同人所有の株券の売却代金、仮名預金の払戻金等を原告の簿外預金に預け入れていたので、これを同人からの仮受金としたものである(以下、各事業年度において同じである。)。
<省略>
(二) 昭和四二年度分の課税すべき所得金額は、申告所得金額一六六万三三七六円に後記簿外利益金額一五三五万七〇六〇円を加算した一七〇二万〇四三六円であり、この範囲でなされた昭和四二年度分の更正処分は適法である。
右簿外利益は、左表の各金額に基づいて前記方法で計算すると一五三五万七〇六〇円である。
なお、左表の未納事業税一〇五万八九一〇円は、前年度分の再生処分により増加した所得金額に対応する事業税を地方税法七二条の二二第一項二号に定める標準税率により算定した金額である(以後の各年度において同様である。)。
<省略>
(三) 昭和四三年度分の課税すべき所得金額は、申告所得金額二〇六万五七四一円に後記簿外利益金額二〇九九万六八三二円を加算した二三〇六万二五七三円であり、この範囲でなされた昭和四三年度分の更正処分は適法である。
右簿外利益は、左表の各金額に基づいて前記方法で計算すると二〇九九万六八三二円である。
<省略>
(四) 昭和四四年度分の課税すべき所得金額は、申告所得金額二二六万四三九九円に後記簿外利益金額二七五七万五三九四円を加算した二九八三万九七九三円であり、この範囲でなされた昭和四四年度分の更正処分は適法である。
右簿外利益は、左表の各金額に基づいて前記方法で計算すると二七五七万五三九四円である。
<省略>
(五) 昭和四五年度分の課税すべき所得金額は、申告所得金額三三二万五三一六円に後記簿外利益金額二七九〇万三八六七円を加算した三一二二万九一八三円であり、この範囲でなされた昭和四五年度分の更正処分は適法である。
右簿外利益は、左表の各金額に基づいて前記方法で計算すると二七九〇万三八六七円である。
<省略>
3 本件推計の合理性
(一) 原告の代表者足立昇は査察官に対し、原告の「横浜店」と「もつ焼き一番」について昭和四〇年頃から売上の二割ないし二割五分を除外して銀行預金等に預け入れていた旨供述し、併せて、昔個人として土地や株の売買をし、設けた金員を仮名預金にしたことはあるが、土地の売買は最近一〇年程しておらず、株の売買も昭和四一年に辞めている旨供述している。
(二) 本件預金等のうち、定期預金、貸付信託の多くについてはその設定日と金額により普通預金、定期積金から移し替えられたものと認められるが、右普通預金と定期積金の大部分の発生原因は不明である。
しかしながら、足立昇とその妻照子の収入は、左表の給与及び賃貸料のほか、株式及び有価証券の売却収入(但し、原告の簿外預金に入金された足立昇の個人預金については、前記のとおり仮受金として処理している。)、恩給及び下水途工事補償金(昭和四三年一二月六七万円が東京都から足立昇に支払われた。)以外になく、しかも、右賃貸料は原告の足立昇に対する貸付金と相殺されて支払われていないのであるから、これらの収入と左表<2>の足立昇及びその家族名義の預金の各期の増加額との対比においても、右足立昇らの収入が原告の簿外預金に預け入れられた状況は認められない。
<省略>
<2>
<省略>
(三) また、原告の申告にかかる売上金額と被告認定の売上除外金額との合計額に占める売上除外金額の割合は左表のとおりであつて、前記足立昇の供述にかかる除外割合と大きな差は認められない。
<省略>
(四) 以上のとおり、本件預金等は原告の売上除外金であると認められるので、これが原告に帰属するものとして財産増減法によりなした推計には合理性がある。
4 本件各重加処分の根拠
(一) 本件各重加処分は、非が本件各更正処分をしたことに伴つてした処分であり、その内容は左表のとおりである。
<省略>
(二) 前記のとおり、原告は、売上の一部を除外して帳簿に記載せず、右売上に関する原始記録を廃棄するなどして右売上除外の事実を隠ぺいした上、本件各事業年度の所得を過少に申告したものであり、右は国税通則法六八条一項所定の重加算税を課すべき場合に該当する。
四 原告の認否と反論
1 被告の主張1のうち、一の事実は認めるが、二ないし四の事実は否認し(但し、東京国税局査察部が法人税法違反の嫌疑により昭和四六年四月二六日原告を強制調査したことは認める。)、五は争う。
2 同2のうち、各事業年度の申告所得額及び別表2ないし7のとおり預金等が存在したことは認めるが、別表1は知らず、簿外利益があつたことは否認する。
3 同3のうち、一の事実は認めるが、その供述内容は虚偽である。二の事実は足立昇らの収入に関する事実のみ認め、その余の事実は否認する。三の事実は原告の申告額を認め、その余は否認する。四の主張は争う。
4 同4のうち、一は認めるが、二の事実は否認し、主張は争う。
5 原告は会計法令に従つて正しく記帳し、原始記録も保存しており、右記帳内容が真実であることは被告の反面調査と同業者の所得との対比においても明らかである。
したがつて、原告が売上の一部を除外した事実はないから、推計により課税をすることはできないし、仮に本件で推計課税が許されるとしても、同業者比率法によるべきで、資産増減法によるのは不当である。
6 また、被告がした本件推計は以下に述べるとおり不合理である。
一 足立昇は、昭和二五年四月頃上京し、飲食店や質屋を営む傍ら、同二六年頃から不動産売買を始め、同三六年頃までの間に約七〇〇〇万円の利益を得たほか、同三三年頃質屋の権利を約二五〇〇万円で処分したことから、同三六年に原告を設立するときには約一億円強の銀行の仮名定期預金等を持つに至つていた。
そして、右仮名定期預金等に対する利息を自動的に積み立てた結果、同四六年当時には、これが約一億八〇〇〇万円に達したのである。
したがつて、東京国税局査察部の強制調査による発見された本件預金等を含む約一億八〇〇〇万円の仮名定期預金等はいずれも足立昇個人所有の預金であり、本件預金等を原告の売上除外金としてされた被告の推計は不合理である。
二 また、足立昇は、昭和三九年一〇月七日以降、原告から給与及び店舗の賃貸料の一部として毎月二六万円五〇〇〇円を受領し、これを別表4の平川、岩田の名義で同四五年一〇月一二日まで積み立てているので、別表4の定期預金は足立昇個人に帰属するものである。
三 なお、右足立昇に対する給与等の未払い残額及び足立照子に対する未払給与の総額は少なくとも一六〇〇万円に昇るから、仮に原告に簿外利益があるとしても、その金額から右未払給与等を控除した残額が原告の簿外利益になるというべきである。
五 被告の再反論
原告の認否と反論5、6はいずれも否認ないし争う。
足立昇及び足立照子に対する給与は全額支払われているし、店舗の賃貸料も原告の足立昇に対する貸付金と相殺されるなどして現実には支払われていないのであり、原告主張の未払金は存在しない。別表4の平川、岩田の名義の預金は原告の簿外資産である。
第三証拠
証拠の提出、援用、認否は、本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、ここに引用する。
理由
一 本件各処分の経緯
本件各処分の経緯が請求原因1記載のとおりであること及び本件各処分が料理飲食業を営む原告の昭和四一年度分ないし昭和四五年度分について売上除外金があるとして、資産増減法により各売上除外金額を推計してなされたものであることは当事者間に争いがない。
二 本件推計課税の必要性について
1 原告が飲食店経営等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、横浜駅西口商店街に「横浜店」及び「もつ焼き一番」の二店舗を有していること(なお、原告は従前蒲田にも店舗を有していたが、昭和四五年一月これを閉店している。)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一三ないし第一六号証、第一八号証、第二〇ないし第二六号証及び第三七号証の一、二によると
一 原告の代表者足立昇は昭和三六年に原告を設立してこれを経営してきたが、同四〇年頃から原告の売上を一部除外する方法で法人税の課税を免れることを企図し、「横浜店」では、従業員が帰る午後一〇時頃以降閉店までの間、売上をレジスターに打たず、その間の売上伝票も破棄した上、右売上を除外して帳簿に記載し、また「もつ焼き一番」においても、閉店後に店長松本郁夫(足立昇の妻の弟)から当日の売上金と使用済及び未使用の各食券を受領した上、右使用済食券を焼却して売上金を実際より少なく記帳することにより、概ね売上の二割ないし二割五分を売上から除外し、毎月数回に分けて城南信用金庫蒲田支店又は安田信託銀行横浜支店に普通預金あるいは貸付信託等として預け入れ、普通預金の預金額がある程度まとまるとこれを定期預金に移し替えるなどしていた。
二 ところが、東京国税局査察部は、法人税法違反の嫌疑により昭和四六年四月二六日原告を強制調査し、同日安田信託銀行横浜支店を、次いで翌二七日には城南信用金庫蒲田支店をそれぞれ調査の上、無記名ないし仮名をもつてされた原告又は足立昇の定期預金証書及び貸付信託受益証券等並びにこれらに使用された印章多数を発見、押収した。
三 東京国税局査察官の調査を受けた原告の代表者足立昇は、当初仮名の預金等の存在を否認し、原告の帳簿の記載が正確である旨供述していたが、右各書類が押収されたことを知り、右一記載の趣旨の事実を供述するようになつた。
しかしながら、その後足立昇及び同人の妻足立照子は、本件預金等が同人の親戚や知人に対する貸付の返済金を預け入れたものである旨供述を変え、貸付先である旨供述した親戚、知人に対し口裏を合わせるよう依頼するに至つた。
以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 右事実によれば、原告は売上除外金を記帳せず、その原始記録も破棄又は焼却している上、代表者足立昇においても事実を隠蔽する等右査察官の調査に非協力的な態度であつたため実額による損益計算をなしえなかつたのであるから、被告には推計により原告の所得金額を算出して課税する必要があつたというべきである。
三 本件各更正処分の適法性
1 成立に争いがない乙第一四ないし第一六号証、第二〇ないし第二六号証、第三七号証の一、二、第三八、第三九号証の各一、二、第四〇号証の一ないし三、第四一号証の一ないし七、第四二号証の一ないし五、第四三、第四四号証の各一、二と弁論の全趣旨によると、原告を強制調査した東京国税局査察官は、安田信託銀行横浜支店等から押収した預金証書等を手掛かりとして、右預金等並びに足立昇の実名及び家族名義又は仮名による預金等を順次過去に遡つて調査し、その開設時期や預金等の移動の関係等から判断して足立昇の個人預金等であると認められるものを除外した結果、その余の仮名預金等が前記売上除外にかかる原告所有の預金等であると推定されたこと、そこで、これを預金等の種類ごと時系列によつて分類整理したところ、別表2ないし7のとおりになつたこと、また、足立昇を含む関係者の供述により、原告の売上除外金は営業日ごとに発生し、これがまとまると安田信託銀行横浜支店又は城南信用金庫蒲田支店の従業員が足立照子から集金し、預金等として受け入れていたことが認められたので、原告の事業年度の最初に受け入れられた金員がその前年度の期末に現金として存在していたものと推認し、これを時系列によつて分類整理したところ、別表1のとおりとなつたこと、なお、右調査の過程で、預金等の移動の経過に照らして、足立昇所有の株券の売却代金、仮名預金の払戻金等が一部原告の簿外預金に預け入れられていることも判明したので、右足立昇個人のものと認められた預金等の金額を同人からの仮受金として算定したところ、本件各事業年度において、それぞれ前記被告の主張2一ないし五の各表の仮受金欄記載の金額となつたこと、以上の事実が認められる。
原告は、同三六年の原告設立時には足立昇が不動産売買による利益約七〇〇〇万円と質屋の権利を処分した代金約二五〇〇万円を併せて約一億円強の仮名金等を有しており、その元利合計は同四六年当時で約一億八〇〇〇万円に達していたとして、東京国税局査察部の強制調査により発見された本件預金等を含む約一億八〇〇〇万円の仮名定期預金等がいずれも足立昇個人所有の預金である旨主張しているが、主張の各事実を認めるに足りる証拠はない。
2 右東京国税局査察官の事実認定と判断は合理的であつて是認しうるところ、右認定にかかる事実によると、本件各事業年度における原告の簿外預金等の推移は、それぞれ前記被告の主張2一ないし五の各表の借方欄記載のとおりであり、各期の期末現在額から期首現在額を控除した差額がすなわち当該事業年度の簿外資産の増加額であり、この金額から前記にかかる各期の仮受金を控除した残額が、原告の本件各事業年度における各簿外利益であると推計することができる。
この点について原告は、原告が会計法令に従つて正しく記帳し、原始記録も保存していた旨、あるいは足立昇の東京国税局査察官に対する供述が虚偽である旨それぞれ主張しているが、東京国税局査察官の調査を受けた足立昇は、当初仮名の預金等の存在を否認し、原告の帳簿の記載が正確である旨供述していたが、預金証書等の押収を知らされて原告の売上除外の事実を供述するようになつた(前掲乙第一四号証)もので、その供述内容は信用できるものというべきであるし、右足立昇の供述内容は安田信託銀行横浜支店又は城南信用金庫蒲田支店の関係者の東京国税局査察官に対する供述内容(乙第二一ないし第二四号証)とも符合しているばかりか、右関係者の供述にかかる恒常的な金銭の預け入れの状況に照らしても、本件預金等は原告の売上除外金によるものであると認めるのが合理的であつて、原告の右主張は、これを認めるに足りる証拠もなく、到底採用できるものではない。
また、原告は、資産増減法による推計課税は不当であるから同業者比率法によるべきである旨主張し、加えて本件推計の合理性についてもこれを非難しているところ、期首と期末の資産と負債の変動によつて損益(所得)を算定することは会計法則上も是認されている合理的方法であり、右資産と負債の正確な算定と帰属主体の認定がなしうる限り、右方法により所得の推計をなすことには何らの不合理も存在しないものであるから、資産増減法による推計課税が不当であるとの原告の主張は採用できるものではない。
しかも、足立昇としの妻照子の収入が前記被告の主張3二の表<1>に記載された給与及び賃金料並びに足立昇の株式及び有価証券の売却収入、恩給及び下水道工事補償金(昭和四三年一二月六七万円が東京都から足立昇に支払われた。)のみであることは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第二七ないし第三一号証、第三三号証ないし第三五号証、第三七号証の一、二と弁論の全趣旨によると足立昇及びその家族等の名義にかかる預金等の各期の元本額は前記被告の主張3二の表<2>のとおり増加していると認められるのであつて、足立昇ら一家の生活維持に要するであろうところの費用をも勘案するなら、足立昇の右収入の余剰金は右預金等に預け入れられ、これが原告の簿外預金に預け入れられたことはないものと推認される(右推認を覆すに足りる証拠はない。)のであるから、前記にかかる簿外資産の帰属主体の認定についても不合理な点はなく、期首と期末の各資産も前示のとおり客観的資料により算定することができるのであつて、本件の推計には何ら不合理な点はないから、適法なものといわなければならない(なお、足立昇の株式及び有価証券の売却収入のうち原告の簿外預金に入金されたと認められるものについては、前記のとおり仮受金として処理されている。)。
3 そして、成立に争いのない乙第一、第二号証の各一ないし三、第三号証の一ないし四、第四、第五号証の各一ないし五によると、足立照子に対する給料は全額支払済であり、また、足立昇に対する店舗の賃貸料も原告の足立昇に対する貸付金と相殺され支払われていないと認められるのであつて、原告の認否と反論6二、三の主張事実はこれを認めるに足りる証拠がないから、右の各主張もまた採用できないところである。
四 本件各重加処分について
前記のとおり、原告は、売上の一部を除外して帳簿に記載せず、右売上に関する原始記録を破棄するなどして右売上除外の事実を隠ぺいした上、本件各事業年度の所得を過少に申告したものであり、右は国税通則法六八条一項所定の重加算税を課すべき場合に該当するところ、本件各事業年度について同税の計算の基礎となる税額は前記被告の主張4一の表に記載のとおりであり、これに同条同項所定の税率一〇〇分の三〇を乗じた金額は同表の税額欄記載の各金額となるから、右各金額の範囲内でされた本件各重加処分はいずれも適法である。
五 結論
そうすると、被告がした本件各処分はいずれも適法なものであつて、原告の本訴各請求には理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川上正俊 裁判官 宮岡章 裁判官 今中秀雄)
別表1
現金 期末残高明細表(簿外分)
<省略>
別表2
普通預金 期末残高明細表(簿外分)
<省略>
別表3
通知預金 期末残高明細表(簿外分)
<省略>
別表4
定期積金 期末残高明細表(簿外分)
<省略>
別表5
定期預金 期末残高明細表(簿外分)
<省略>
<省略>
<省略>
別表6
貸付信宅 期末残高明細表(簿外分)
<省略>
<省略>
別表7
金銭信託 期末残高明細表(簿外分)
<省略>